月に物語を与えましょう

きっと私は空に浮かぶ〝それ〟が球体であることに気づくことはないでしょう。
そして昼にうっすらと見える薄白いものと、夜に輝く金色のものが実は同じだということも。

陽の熱を宿さない空気がキンと肌をさする
虫の音は鳴り止み、薫風が木の葉を揺らしている
天と地はとりどりの色を失って一つとなり、紛れたカラスの目が光っている
キラリ
あっちを向いてキラリ
そのマタタキの源はくるり

「今月は」

同じように目をまん丸にしてその温度のない光を仰いでいると、肉体の喧騒が薄らいでいってspiritがはだけてくる
裸になった霊体に薄光が染み込んで、満たされてゆく
すると、瞼が無くなり、景色が無くなり、重力が無くなり、距離が無くなり、右が無くなり前が無くなりここが無くなりいまがなくなりふわり

さらり

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さらさらキラリ

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光る砂がらんるらんると流れている

あちらの方にすいと手を伸ばすとざらり

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ざらざらギラリ

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鈍く光る砂利がぎしりぎしりと詰まってる

柔らかな光の粒に包まれて
泳ぐようにように
一緒になってゆらり

ふとするとひらり
透けた蝶がぱたぱたと
ひらひらひらり あちらから

パタパタパタリ こちらから

つとんととまると光はふつり

dark
dark
dark

夜色の鱗粉をまとってまたひらり

するとどんどん重たくなって瞼を閉じて下に下に降りておりてはたり

「さようなら」

おかあさんおかあさん
お月さまに行ったらね、キラキラしててね、ちょうちょがいてね、とうめいでね、お砂の光を吸って真っ黒ちょうちょになってね、たくさん飛んでいくの

そうなのね、それは素敵ね

おとうさんおとうさん
ここにはお砂のほかにも、土とか、海とか、お花とか、いろんなものがあるから、いろんな色のちょうちょがいるのかなぁ?

そうだね、そうかもしれないね

楽しかったね

おやすみなさい